双閃の軌跡

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第一章 双閃、相見える刻 (9)



 炎熱の咆哮。
 外壁を砕き、回廊を構成していたあらゆるものを呑み込んでいったそれは、ヴェルトリア城の一角を内側から喰い破るようにして巨大な火球を闇の中に開いていた。
 火山の噴火を思わせるような大地の鳴動はしばらく続き、城の北側では再三の激震に耐えかねた区画が崩落を始めている。
 今夜、ヴェルトリア城はその落成以来、最大の災厄を迎えていた。
 北の回廊は、その殆どが焼失していた。
 消滅、といった方が正しいかもしれない。
 全てが塵と消え、濛々と噴煙の渦巻く中――。
「フ……、フ……」
 啜り泣きにも似た響きを伴った息遣いが微かに響いていた。
「フ……、アハハハハッ!」
 息遣いは、やがて気でも触れたかのような哄笑へと変わっていた。
 その声以外に、辺りに息のあるものの気配はない。
 あの爆発の中、生きている人間がいるなど考えられるはずもなかった。
 が――。
「ほんと、脚の一本でもへし折っておけばよかったわ」
 その声の主は、獲物を取り逃がしたことを、知っていた。

 この時、西の回廊に、息を乱しながら駆けていくルシェルとセフィナの姿があった。
 長く伸びた通路を抜けていった二人の影は背後を気にする余裕もないらしく、突き当りを左に折れて南の回廊に出ると、曲がり角の影に身を潜めたところで、止まった。
 二、三度の呼吸で息を整えたルシェルだが、またすぐに走り出すわけにはいかなかった。
 セフィナが喘ぐような呼吸を続けていたからだ。
 爆発で生じたらしい粉塵が大気中に入り混じり、淀みのように周囲の空気を汚していることが見た目にもわかる。
 あまりこの空気を吸ってはいけないことも分かったが、急激な運動に慣れていないセフィナの身体は次々と酸素を欲しがり、息を止めることなどできなかった。
「セフィナ様――」
「だいじょうぶ」
 両膝に手をつくようにして身を屈め、呼吸をするのも難儀そうにしていたセフィナだが、ルシェルが気遣うような言葉を続けるのは拒否した。
「今のは……」
 口にしながら、蒼白になった顔を上げる。
「一体、なにが起こったの……?」
 荒くなった呼気とともに吐き出された声は掠れていた。
「わかりません……」
 ルシェルは首を微かに振ってから、言葉を継いだ。
「あの魔女が何らかの魔法を放つ前に阻止しようと杖を打ち払ったのですが、それが引き金となって爆発が起きたようです。……なぜかは、わかりませんが」
 俯いたルシェルは、左手にした鋼の直剣に視線を落とした。
 高熱によって焼き切られた刀身は半分ほどを失っている。
 残った半分もひしゃげたように変形して、もはや使い物にはならなくなっていた。
 ――魔力を結集させているところに衝撃を加えたので暴発した。
 と、一応の理屈は考えられたが、本当にそのような原理があるとも信じ切れなかった。
 そんなことができるとしても、物理的な刺激とは全く違う、別の何かが必要だと考えられた。
 その何かの要因があって爆発が生じたのかもしれないが、結局、助かったのは運がよかっただけに過ぎないと思う。
 あの時、爆圧に弾かれるようにして転がったルシェルだったが、濁流のように流転する視界の中にセフィナの影を捉え、必死に腕を伸ばしたのだった。
 庇おうとしたのかどうか、そのときの意図は自分でもはっきりしない。
 思考の入る余地などない刹那的な反応だった。
 そこからどうやって体勢を立て直したのか記憶にないが、気がついたときには、セフィナの腕を引くようにして回廊を逆走するように駆け出していたのである。
 結果的に逃げたわけだが、これで良かったとも思う。
 剣一つで二人の生命が助かったのなら安いものだった。
「さっきのは、やっぱり、魔女なの……?」
「そのように見えました。人の姿はしていましたが、……私たちと同じような、普通の人間だとは思えません」
「……そう。そうよね。あんな人、いるわけないもの……」
 ルシェルに聞かずとも分かっていたことだが、自分たちが理解を超えた存在と対峙していたという事実はなかなか呑み込めるものではなかった。
「魔女は、どうなったの?」
「それも、わかりません。あの爆発に呑まれていれば、まず無事ではいられないと思いますが、私も無我夢中でしたから……」
 ルシェルはそこで一度言葉を切り、曲がり角の陰から自分たちの走ってきた通路の様子を窺った。
 爆風が吹きぬけたことにより灯火の殆どがかき消された回廊内は城外と同じ闇の色に侵食されていたが、動くものの気配は感じられない。
 月明かりのおかげで、目さえ慣れれば大体のものは輪郭まではっきりと見ることができた。
「追いかけてきてる?」
「いえ……」
「そう……」
 ルシェルの返事にため息をつくように答えたセフィナだったが、安堵したわけではない。
「……これから、どうすればいいの?」
「…………」
 怯えたように震える瞳を向けるセフィナに、わからない、とは答えられなかった。
「離宮に行くしかありません。クライシュ様たちも、あそこへ向かわれているはずです」
 万が一、ヴェルトリア城が重大な危機に見舞われることがあれば離宮を最後の避難場所とする。
 そう決められているから、そう答えるしかないのだ。
 しかし、本当にそれが生き延びるために正しい行動なのかは自信がなかった。
「あの魔女も、離宮に用があると言っていたのに?」
 生きていれば、また鉢合わせになるかもしれない、という想像が二人の脳裏をよぎっていた。
「……ですが、この城であそこより守りの堅いところはありません。城外へ逃げたとしても決して安全ではないのです。この騒ぎの中で、デモ隊の人々がどう動いているのかは予測がつきませんが……」
 ルシェルは答えながら、懸念すべきは魔女の存在だけではないことを思い出していた。
 城に火の手が上がったのを見て、激発された人々が暴徒と化して殺到してきたら、と考えるのは目が眩むことだ。
 城外へ向かったであろう父は無事なのだろうか……。
「……わかりました。私たちに選択の余地は無いのね」
「…………」
 覚悟と諦めが同居したような表情のセフィナを見るのが、辛かった。
「まだ、走られますか?」
「うん……」
「では参りましょうか」
 こくん、と僅かに頷いたセフィナに、ルシェルは余計なことを言わなかった。
 今は何を言っても不安を煽るようなことにしかならないからだ。
 再び駆け出した二人の身体を、張り付くような冷気が背中から覆いかぶさってきたが、構ってなどいられなかった。
 離宮は一階に入り口がなく、二階の高さに相当するところに門があり、そこにはこの居館の東にある跳ね橋を渡ってしか入ることができない構造になっている。
 セフィナの祖父の代に大規模な改修が行われて城砦としての機能が強化されているという話だが、魔女の魔法を見た後ではそんなものがいつまでも保つとは思えなかった。
 では、それならどこへ逃げるのが最善なのかとなると、俄かに思考が凝り固まってきて何も思いつきはしなかった。
 これ以外の正答は、知らないのだ。
 壁から滲み出してきたような薄闇が視界を覆い始める中、ルシェルの姿だけは見失わないようにと走り続けるセフィナは、心底に渦巻く不安に思い煩うのをやめた。
 目を背けた。
 どこへ逃げても無駄だと悟ってしまったら足はもう動かなくなってしまう。
 だから、ルシェルについていくことだけを考えた。
 今は、彼女の存在だけが頼りだった。
「…………?」
 ふと、ルシェルの背中が、止まった。
 何かあったのかとその前方を覗き込んだセフィナの瞳に飛び込んできたものがあった。
 黒い塊。
 それが赤絨毯の上にこびりついている。
 肌が粟立つのを感じたセフィナは二、三歩を後ずさったが、ルシェルはその黒い塊に近づいてしゃがみこんでいた。
「しっかりして」
 ルシェルが口にした言葉の意味をセフィナは一瞬、理解しかねた。
「ウゥ……」
 黒い塊が呻き声のようなものを発していた。
 絞り出すように吐かれたその声は恐ろしかった。
 だが、セフィナはルシェルの傍まで寄ると、自分も腰を屈めて足下の暗がりに目を凝らした。
 城兵だ。
 闇に埋もれかけた顔には苦悶が滲み、元の顔立ちを分かりにくくしていたが、若い男の兵士だと知れた。
「誰にやられたの?」
 ルシェルは兵士の上体を静かに抱き起こして尋ねたが、もはやまともに喋れる状態でないことはすぐにわかった。
 左の脇腹には何かで抉られたような大きな空洞が口を開けていて、そこから今も脈打つように流れ出る血の勢いが止まらないのだ。
 それ以外にも刀創と見られる深い傷口が数箇所あり、手の施しようはなかった。
「…………」
 黒い染みのように見えるのは全て彼の身体から流れた血液であることに気付いたセフィナは、ただ言葉を失った。
 若い城兵は焦点の定まらない瞳をルシェルに向けると、朱く染まった手を宙にさ迷わせ、縋(すが)るように彼女の袖を掴んだ。
 震える口唇が、何かを伝えようとしている。
「に……」
「……?」
「逃げて、ください……」
「あなたを襲った敵は?」
「ま、だ……、近く、に……」
 城兵は微かに首を傾け、通路の奥にある何かを見遣るような仕種を見せたが、再び開きかけたその口が、声を発することはなかった。
 死――。
 彼の身体から全ての力が消えたことは腕を伝わってきていた。
「…………」
 ルシェルの表情に変化はない。
 しかし、城兵の身体を支えていた両腕が打ち震えているのは夜目にもはっきりと見て取れる。
 セフィナもまた、胸を締め付けられるような感覚に支配され、その場から動くことができずにいた。
 水を打ったような静謐の中、死が、厳粛に、理不尽に、城兵の全身にこびりついていた。
 が、その死を悼む間もなく、顔を上げたルシェルが前方の暗闇を凝視していた。
 睨んでいる。
 その瞳からは既に悲しみの色は消えていた。
 ふと――。
 グチャ……。
 水気を含んだような、粘ついた音が通路の奥から響いてきた。
 グチャ……、グチャ……、ブチュ……。
 ぼうっと伸びた影がゆらりとしながら次第に大きくなり、淡い月光の中にその姿をあらわにした。
 それは、暗灰色の甲冑に身を包んだ人の形をしていた。
 素直に人だと思えなかったのは、兜の奥で鈍く光る目玉や僅かに覗けている皮膚が、それを覆い包む甲冑と同じ色をしていて、とても人肌からかけ離れたものだったからだ。
 その後ろから、ぶん、という音が聞こえて、胸を貫かれた人間の身体がルシェルの手前に、どさ、と投げ出され、目を剥いていた。
 既に事切れているということは確認するまでもない。
 槍の穂先にかけるようにして引きずってきたのだろう。
 その身体には、絶命してもなお、何度も突き刺して弄(なぶ)られたような惨たらしい痕跡があった。
「ルシェル……!」
 叫んだセフィナはここに至っても彫像のように動こうとしないルシェルの肩を掴んでひどく揺さぶりたい衝動に駆られていたが、その気持ちに身体がついてこなかった。
 既に足は立てなくなっていた。
「セフィナ様」
 顔を向こうに向けたままのルシェルの、声が答えていた。
「……ご心配には及びません」
 ルシェルは腕の中にしていた若い城兵の亡骸を静かに横たえると、彼の腰の鞘から剣を引き抜き、そろりと立ち上がった。
「すぐに終わらせて御覧に入れます」
 その声は力強い。
 しかし――。
 冷たい声。
 いつもの彼女らしい温かみがすっかり消え失せた声。
 それははっきりとセフィナの鼓膜を打ったが、瞬く間に彼女の身体を冷え切ったものにしていた。
 この城を取り巻く毒気に当てられ、ついにルシェルまで変わってしまったのではないかと思うと、恐怖を覚えずにはいられなかった。
 ルシェルは、足を床に擦るようにしてじわりと前に進み出ると、闇の中に並ぶ灰のような色をした人型の影を一瞥した。
 影は三体ある。
 そのいずれもが、二メートル近くある槍のような得物を携えていた。
 ルシェルの手にする直剣の長さは八十センチに満たないものだが、リーチの差を特に気にすることはなかった。
 日頃から、立ち合う相手には長物を持たせ、自分は短い木刀のみを手に稽古を積んでいたのだ。
 反応するための間合いさえあれば戦える自信はあった。
 無論、稽古と実戦は全く別物であるが、それも既に一度死線をくぐってしまえば未知の領域ではなくなっていた。
 しかし、不利である。
 一対三という数的不利もさることながら、細長い回廊の中にあっては逃げ隠れすることもできず、どこに身を置いても槍の攻撃範囲の中にいるといえた。
 多数を相手にする場合、側面から回り込むようにして攻めかかれば端の一人が邪魔となって後ろの味方が攻撃できなくなるため、瞬間的には一対一の状況を作れる。
 だが、この回廊が、武装した三人の兵士がようやく並べる程度という広さでは回り込むこともかなわない。
 そして、同時に打ちかかれば槍の方が先に届く。
 圧倒的不利であった。
 それでもルシェルに臆した気持ちは微塵もなかった。
 邪魔になりそうな柱が数本あるならともかく、この状況下での槍は強力だ。
 だが、いくら間合いが長いからといって、その攻撃が腕の長さより伸びてくることはない。
 狭い空間でこちらに逃げ場がない反面、あちらも長柄物では、叩く、払う、といった取り回しはやりづらいはずである。
 見切れる。
 いや、見切る。
 ルシェルは三つ並んだ影の内、一歩分前に出ている中央の影に焦点を合わせつつ、両脇の二つの影も視界に収めるようにした。
 この場合、両翼の二人が手前に出てこられた方が対処しにくいと感じていたが、その二人が前に出てくる様子は無さそうだった。
 それ以前に、この影たちには、互いに連携する、という意思の動きが希薄なように見えた。
 それなら……。
 ルシェルは剣を左に傾けるように持つと、左手を剣の面に添えるようにした。
 やや重心を前にした姿勢で、じり、じり、と足を擦りながら間合いを詰めていく。
「…………」
 影たちは、一言も発しなかった。
 ただ、どうやら自分たちと一戦交えるつもりらしいこの女剣士に、消し炭のように濁った目玉を向けて、この奇妙な前進を凝視しているだけだった。
 だが、いずれの影も、人の感情の機微らしいものはおくびにも出さない。
 ルシェルも、あえて何か言葉を発するようなことはしなかった。
 この連中に人の言葉は通じない、ということを直感的に感得していたからだ。
 ルシェルの足の動きは遅かったが、緩慢さを感じさせるものではなかった。
 力を溜めながら一歩一歩を踏み出し、時訪れたときに一挙に解き放つ。
 爆発の予兆。
 止まることのないルシェルの前進はやがて、槍の間合いに、入った。
 即座――。
 槍の穂先がしなうように大気を切り裂いて、ルシェルの胸元へ踊りかかった。
 それが、彼女の身体を刺し貫くかに見えた直前。
 チィィィィィッ!!
 回廊に火花が散った。
 ルシェルの手にした剣が槍身を滑るようにしながら切っ先の軌道を外へ押しやり、同時に槍を手にするものへ向かって殺到していた。
 石火――。
 瞬いた月光が、人の形をした影の頭から腰までを断ち割っていた。
 棒立ちとなったその影を、ルシェルは渾身の力で体を当てて右手の一体へ向かって弾き飛ばす。
 直後、左に跳ねたルシェルはもう一体の影を槍の柄ごと横薙ぎにしていた。
 両断。
 二つになった影が床に崩れる間もなく、仲間の亡骸を被せられて身動きの取れなくなっていた右手の一体を、首から胸にかけて袈裟斬りにしていた。
 それら全てが、ほんの数秒にも満たない間に起きたことだ。
「…………」
 回廊上に、動くものはなくなった。
 セフィナには、暗闇の中を一筋の光が三度奔ったことまではわかったものの、今の光や音がどのような結果を導いたものなのか想像することができず、静まり返った回廊の奥を唖然として見つめていた。
「ルシェル……?」
 その問いかけが完全に言葉になる前に暗闇を割って彼女が現れたときは、覚えずに心臓が縮み上がりそうになるのを感じた。
 ルシェルの姿にどこかおかしなところがあったわけではない。
 にもかかわらず身を凍らせてしまったのは、セフィナ自身が抱いていた怯えのせいだ。
「お怪我はないですか?」
「え、ええ……」
 ルシェルに引き起こされるように立ち上がったセフィナだが、ルシェルの声と手が、普段の温かみを取り戻していることに安心していいのかわからず、戸惑っていた。
 城兵の亡骸を抱いていたルシェルの腕には血の痕が残っていたが、よく見ると、自分のドレスにもいつの間にかかかったらしい血飛沫のような染みが点々とついているのだ。
 それに気付いたところで悲鳴の一つも出てこない自分も、おかしくなっているのかもしれなかった。
 しかし、ルシェルが普段は決して見せない怖い表情をして闘っているのも、自分を守るために死力を尽くしてくれているのだと分かるから、怖がってはいけないのだと思いついた。
 全てが異常という状況下。
 今は口元に手を添えてお上品に笑っていれば何事もなく過ぎていく日常とは違うのだ。
「…………?」
 そうセフィナが自戒する間にも、ルシェルは足下の何かを手に掬ってじっと観察するような視線を向けていた。
 後ろから覗き込むと、ルシェルの手中に炭の粉のようなものが目に入る。
「それは……?」
「わかりません……。先ほどの兵士たちが床に崩れた途端、このようなものに変わりました」
「…………?」
 ということは、この黒い粉はあの兵士たちの死骸ということになる。
 だが、いくら見てもただの黒い粉にしか見えないそれが、人の身体を形作って動いていたとは理解が追いつかなかった。
「あの兵士たちは一体……?」
 呟かれたセフィナの言葉に、ルシェルは微かに首を左右に振っただけで、答えることはできなかった。
 理解が追いつかないのは彼女も同じなのだ。
 と、その時、右奥の空間から、具足が床を蹴立てるような複数の足音が回廊の空気を震わせてきた。
 ちょうどその辺りには階下へとつながる階段があるはずだ。
「誰……!?」
 セフィナは足音に向かって呼びかけていた。
「私はセフィナです! 誰かいるなら答えて!」
 勇気を振り絞って続けざまに大きな声を出したセフィナだが返ってくる言葉は無く、どこか虚ろげな足音だけが階下から木霊していた。
 その足音が乾いた響きに変わり、どうやら彼らが階段に差し掛かったらしいということがわかった。
「誰なの……?」
「早くこちらへ!」
 足音が目の前にくるまでその場に呆然と立ち尽くそうとしていたセフィナを、ルシェルは半ば無理やりに腕を引っ張って走らせた。
 畏れ多くもこの国の皇女の呼びかけを無視するということは、少なくともこの城の兵士や騎士ではない。
 姿が見えずとも、判断するにはそれで十分だった。
 回廊の東へ向かって走り去った二人を、階上に躍り出た声なき足音が追っていた。




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